2008年11月29日土曜日

新入り猫“ナナ”の身の上

ナナはデパート内にあるペットショプの『半額処分品』であった。
店舗にもよるが三段ショーケースであれば
・上段:売れ筋
・中段:売り筋
・下段:処分品・売約済み
当然、生後四ヶ月過ぎの彼女は下段のセール品になっていた。同室は売約済みの極小仔猫であり、その上段には仔犬が二匹入れられ、大騒ぎであったそうだ。
ケース一つに一頭が基本であるらしいが、仲が良いからと二頭売れる可能性が高くなるし、じゃれ合う仔猫や仔犬は最高のディスプレイであるからして、商売上はこれが正しい。

彼女がショーケースに陳列されたのは、生後約六週間後であった。離乳は済んでいないが、いわゆる商品価値の高い極小仔猫の時期に親元から離されたので、今だ飼い主を母猫と間違え、乳を踏む動作をする。
彼女は生後、心身共に最も成長する大切な時期をショーケースで三ヶ月程も過ごしたためか、月齢のわりに小柄である。皮肉にも成長の遅れは、極小仔猫を求めたがる消費者を相手とするペットショプでは、商品価値が下がらないメリットがあったかもしれぬ。

このショーケースとは、極めて狭く、食事・トイレ・寝所を一部屋で済ます、ワンルームマンションにも似た野蛮な代物である。日に何度清掃したとしても不衛生であり、風水的にも最悪であろう。なにより毎日12時間も人間に見られ、ガラスを叩かれて眠れない。睡眠時間の長い仔猫には拷問の様なものだ。しかも、ナナの居たペットショップでは、仔犬が活発に動き、客を引き付ける為に、猫にとっては高温である約30℃になっていた。もしも、吾輩がこの拷問室に閉じ込められたら半日で発狂するであろう。まさにキチガイ(←なぜか変換できない)生産機である。

よく噂で聞く、ペットショップの売れ残りは殺処分されるというのは、“生鮮関連”の商売方からすると考えにくい。病気等で治療コストが仕入れ値を超えない限り、殺処分するための手間やコストを掛けるより、値下げしてでも、吾が飼い主の様な愚か者に売れば良いのである。もちろん、世の中のほとんどの飼い主様は、純粋過ぎる善意によって“かわいそう”な、売れ残りペットを引き取り家族の一員として迎え、ペットも人間も幸せに暮らす場合が多いとは思う。

解せぬのは、日頃から生態販売に対して懐疑的である飼い主が、処分価格とはいえペットショップから購入した事である。彼であれば、たとえ処分価格であっても、その商売を支援する事であるのは理解している筈である。実際問題として、“極小仔猫”と “売れ残り猫”を買う客層、又は客の心理は違うのであるから、ペットショップはそれを想定した値入をしている。つまり「カワイイ」で売れるのと「かわいそう」で売れるのは別であるから、長い目で見れば、売り上げ・利益が減る事は無い。損切りも商売の一つである。
しかし、ナナは長期間ショーケースに入れられていたわりに神経質な素振りは少なく、人間好きであり、躾は吾輩以上に良いかもしれぬ。おそらくショプの店員さんに可愛がられていたのであろう。店員さんも、幼少の頃からの夢が「ペットショップの店員さん」だったという無垢な人種かもしれぬ。

ちなみに、英吉利(エゲレス)国では、動物をショーケースに入れ展示販売する事は、動物虐待であり、違法行為であるそうだ。ゆえにペットショップなどは存在しない。日本人は人権に対しての考え方が甘い為か、動物に対してもまた同じなのだろうか?なにしろ日本にはカプセルホテルなどという狂気めいた宿泊施設さえ存在する。
かの、夏目漱石が留学した倫敦(ロンドン)にもちょっと豪華なカプセルホテルはあるのだが、その経営者かブレインはアジア人かもしれん。

元野良である吾輩も、記憶は定かではないが捨て猫と思われる。噛み癖の激しさが仇となったのかもしれん。そんな吾輩から見るとナナが売れ残った理由は
・ボーナス商戦に乗り遅れた(雌のアビシニアンは成人男性向け商品)
・夏休み商戦に合わない商品であった(夏は仔犬が売れ筋)
・耳の形が折れ気味・開き気味で悪い
・目つきがそこはかとなく悪い
・肛門線の匂いが強烈である
・アビシニアンとしての色が悪い

辛口過ぎて、新入り猫のナナにこれを読まれたら吾輩の危機であるが、幸い彼女の部屋にパソコンは無い。
念のためフォローしておこう。彼女の耳の形は好くなりつつあるし、体毛については、そもそも色弱である我々猫には判らない。飼い主も色弱であるし、DTPなどを生業としている彼にとっては、若干の色味の悪さなどCMYKへの変換誤差より小さな問題でしかない。写真での色味をより好くしたいのであれば、専門家に外注するのである。
雌は色ではない。艶が重要である。
肛門線の匂いについては、飼い主殿が匂いフェチであるので気にする必要は無い。吾輩との縄張り冷戦が勃発すれば、溜まった分泌液を放出できる。最悪、溜まり過ぎで化膿しそうなら、病院で肛門絞りである。
椅子の上の新入り猫

飼い主も承知の筈ではあるが、猫は単独行動の生き物であり、友達など必要ない。いや、友達という観念自体が理解しにくい。仔猫が求めるのは母親と兄弟である。
まさかとは思うが、狂人めいた吾が飼い主は、吾輩の性欲の処理道具としてナナを購入したのであろうか?動物愛護団体が卒倒する様な理由だ。なにしろ彼は、ペット用の風俗などという、イカレた商売を考え付く男だ。

少々期待してしまう雄の性が悲しい。

ペットは量産品の玩具ではないと言われが、誤解を承知で言うなら、実際はペットショップで販売される犬猫は玩具ではなく生鮮商品である。

いかん。
飼い主が求婚しているマドンナの母君がこのブログを見ているのを忘れていた。

1 件のコメント:

  1. 今日は随分な超大作ですね!!
    涙あり、笑いあり?!
    引きあり?
    お勉強になりました~!

    返信削除